「前向き!タイモン」2010

「第56回岸田國士戯曲賞」受賞作品

「京都府立文化芸術会館シェイクスピアコンペ優秀賞」受賞作品

2010.Dec at 京都府立文化芸術会館
2011.Sep at こまばアゴラ劇場(東京)
2011.Sep at 京都府立文化芸術会館
2013.Jul at AI・HALL(伊丹市立演劇ホール)
2013.Aug at せんだい演劇工房10BOX(仙台)
2013.Aug at UDOK.(福島県いわき市)
2013.Aug at こまばアゴラ劇場(東京)
2013.Sep at 七ツ寺共同スタジオ(愛知県名古屋市)

 

作・演出 : 矢内原美邦

出演 :
鈴木将一朗 笠木泉 山本圭祐

映像・美術:高橋啓祐
照明:南香織
舞台美術:細川浩伸(急な坂アトリエ)
舞台監督:鈴木康郎 湯山千景

シェイクスピアの「アテネのタイモン」をベースに、どれほど辛く厳しい人生でも前向きに生きる人々の生き様を描いた現代版タイモン。2010年12月に行われた京都府立文化芸術会館主催の「シェイクスピア・コンペ」では優秀賞を受賞。第56回岸田國士戯曲賞受賞作品。

前向きに生きる。これは簡単なことではありません。前向きに努めながらも、なにひとつ報われないまま人生が終わることなど よくあることです。だからって後ろ向きはまっぴらごめんです。前のめりになるくらい前向きに人生を歩もうではありませんか? 後ろ向きな人生が、あることをきっかけにパッ!と前を向いたときに生み出される、生きることへのエネルギーを私は信じたいです。これは不幸などん底にいる後ろ向きな男が前向きに人生を見つめなおす作品、それが『前向き!タイモン』です。

第56回岸田國士戯曲賞 審査委員長・野田秀樹選評(抜粋)

 私は今回は、矢内原美邦氏の『前向き!タイモン』を推した。無責任な言葉の羅列でイメージを喚起させ、無責任にイメージがぶつかり合う。それだけで、ストーリーが紡がれていく。久しぶりに登場した、その種の作家だ。私はこういう作品に演劇の可能性を見る。近頃のテレビや映画の脚本にも見えがちな一連の、いわゆる巧い若手の作家群の作品に私は欲求不満である。 この矢内原氏の「例え話」は、どれもこれも面白かった。とりわけ、「農民」が語る『空から落ちてきた子供(りんご)と大きな手』の話は、それだけで壮大な物語にもなるほどのイメージだ。しかも、子供は林檎のことなのだと、しつこく繰り返すことで、比喩と言うものをさらに括弧付きにしてしまう、これはうまい。しかもこの上手さは、近頃の若い作家の、どこで覚えたのか知らないが、マニュアルのように書いてくる巧さではなくて、伸びやかである。つまり無責任に楽しんで書いている。舞台を好きな人間の現場から生まれてくる、しなやかで無責任なうまさである。と確信する。責任感のあるうまさなど見せられても、わたしは戸惑ってしまう。 そして、ドキッとするようなシンプルで美しい言葉にも出会えた。「誰かが生きたかった明日が、僕の明日かもしれないから」「キミとぼくが出会う前に進みだす時計がある」これらの言葉に貫かれているのは、ハスにしかものを見られない一群の作家(私などはその中に入るのだろうが……)に対する、ポジティブなアンチテーゼであり楽観論である。その意味で、曲者が揃いすぎた選考委員たちの中で彼女の作品が支持されなかったのもうなずける。

- Review -

松井みどり(美術評論家)
「感覚のサーカス:『前向き!タイモン』の独創性一部抜粋

 この劇に接した観客は先ず、俳優が台詞を語るときのとてつもなく速いスピードと身体運動の激しさに驚くはずだ。人物たちの口からはじき出される言葉に追いつこうとするうちに、観客は、自分の耳が、音や速度としての言葉の刺激を受け止めながらその意味を拾う「曲芸」ができるように鍛えらていくのを実感する。同時に、「農民」や「メイド」の、テープレコーダーの早回しと競合するかのような早口や踏み台昇降運動には、人間の身体がその限界を超えて機械の身体に近付こうとするときの激しいエネルギーを眩惑感を感じる。そのような「音楽」や「ダンス」にも似た身体パフォーマンスを「壁紙」に、舞台の上の箱のような装置が組み替えられ、次の場面への準備が進められる様子は、歌舞伎における「だんまり」や黒子のような、パフォーマンスと裏方作業の一体化の現代版を見るようだ。そうした身体性の強さは疾走的なライブ感を伴い、劇の哲学的意味と連動して、観客が劇全体の[動き]に全感覚と思考を傾けることを要求する「感覚と思考の格闘場」のような状況を作り出す。そこでは、観客自身も、台詞、映像、動きから発せられる刺激や情報を解釈して、自らの行動に生かすように挑戦され続ける。

 

西本ゆか
「言葉と動きの速射砲」一部抜粋

 1秒での蓄積で日々が連なる人生は、何げなく過ぎる一瞬が未来を変える岐路となる。「前向き!タイモン」は御曹司タイモンが待ち人に「待ってるからね」と告げ、切れた電話に気付く「1秒」の間に体験した、人生と、巡るすべてを描く。今の自分と今を認識した後の自分はきっと違うだろう。極限まで圧縮された走馬灯のような舞台は、そう信じさせる祈りと力に満ちる。
 絶望的だが、聖誕祭生まれの3人からは、生きられなかった人の分まで生きる「明日」が福音のように浮かぶ。待ち人は来ず、タイモンは引きこもりのままだろう。それでも立ち上がる明日を思うなら、すくんだままでもそれは前向きではないか。
演者3人はスキルが高く、言葉も動作もよどみない。膨大な情報の咀嚼に観客が視力聴力を絞る闘いをやめた時、聞くと見るとを分けず、「感じる」ことで心に直接届く熱量の雄弁さに気付かされる。静止と沈黙を暗転で包む幕切れは肯定に満ち、優しい。

Flyer design:Jignasha Ojha 石田直久

- Credit -

映像出演:
足立智充 小澤雄志 上村聡 柴田雄平 関寛之 高山玲子 NIWA 光瀬指絵 守美樹 矢沢誠

主催:ミクニヤナイハラプロジェクト
   京都府 財団法人京都文化財団(京都公演)
   boxes Inc.(仙台公演)
共催:AI・HALL(伊丹公演)
提携:(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場(東京公演)
   KYOTO EXPERIMENT(京都公演)
助成:東京都芸術文化発信事業助成 芸術文化振興基金
   アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)
   公益財団法人アサヒビール芸術文化財団
特別協力:急な坂スタジオ
企画・制作:precog

 

- Archive Site -

+ 2011 東京・京都公演

+ 2013 5都市ツアー

design:石田直久 photo:中島古英

装丁:石田直久

「前向き!タイモン」単行本


矢内原 美邦 (著)

資産家の引きこもりと、そのメイドやリンゴ農家──不幸の「どん底」でもがく3人が、今ここに、ポジティブな雄叫びをあげる! 3.11以後の演劇を提示する、未来のための〈1秒の物語〉。第56回岸田國士戯曲賞受賞作。

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